理事長(会長)挨拶 / 沿革

理事長(会長)

現在,日本デジタルパソロジー研究会は大きな役割を担っている.

我々に与えられたミッションは,FDA,PMDAの認可を得た,デジタルパソロジー・デジタルサイトロジーで使用する多数の解析アプリを世に輩出することである.

かつて,日本の技術は世界で一番であった、、、
そう,日本一は世界一だった.私もそう考えていた一人だった、、、

今,日本が悟るべきことは,社会において,継続は衰退を意味するということである.

日本は全てにおいて減点法を採用している.評価される者から最も文句が出にくい方法だからだ.優れた特別なことをしても高い評価はしない(賞状1枚くらい出すかもしれないが...).特に人事に関しては,何をしたかではなく,何をしなかったか,つまり減点(失敗)はないか?ということが重要視されている.今,上昇傾向にある医局,会社を除き,日本社会の出世した日本人は,巧妙に“いかに失敗しないか”を考えた人間であることが多い.失敗しない最高の方法は継承することにのみ注力し,チャレンジ/変化しないことである.

この20年,30年で,このことに気がついていた日本人は僅かであり,チャレンジして失敗した人は腹を切って消えていった.私はこの仕組みが“失われた30年”の根幹であると考えている.

我々は違うという方もいるだろう,どうだろうか?
A先生の様に診断できる病理医になりたい,B氏あるいはC社の様な技術を得たい,継承したいetc. etc…

私が推察するに,先人であるA先生,B氏,C社は努力し,チャレンジし,失敗を経験し,その診断能力,技術を習得したはずである.つまり,我々後輩はその努力,チャレンジや失敗することなく,その場所までワープして継承されたのである.A先生,B氏,C社を超えなければ,我々は継承したにすぎない.継承にとどまるならば,まさに衰退を意味している.私事であるが,私は尊敬するA先生が今同級生だったら何をしているだろうと考えて,その仮想A先生と戦ってきた.仮想A先生はすごかった.未だに追いつけていない...

さて,日本のデジタルパソロジーはどうだろうか?
約20年前,まだ本会がテレパソロジー研究会として立ち上がったころ,間違いなく日本のデジタルパソロジーは世界屈指であった.しかし,現在は世界トップクラスの施設に比べ,一部の施設を除き,完全な周回遅れあるいはスタートさえしていない.日本の病理という分野に携わる多くの人々が,決して努力してこなかったわけではないが,デジタルパソロジーに関しては,チャレンジし,失敗を糧にして変化してこなかったことは事実であろう.

では,周回遅れの我々は今後何をすべきか?
10年前に比べ,ほとんどのWSIスキャナは,既に顕微鏡に劣らない綺麗な画像を映し出す技術を得ている.しかし,きれいな画像を映し出すだけであれば,顕微鏡のままでよい.デジタルパソロジーの利点は,①地球の裏側の病理医でも診断可能であること,②デジタル解析が可能であることである.

①も重要な利点であるが,日常診療で,外部の先生にコンサルトが必要な症例はどの程度あるのだろうか?私は昨年まで,外勤で数名の病理医の先生に助けていただきながら全症例に対応していた1人病理医であった.しかし,昨年約5000例を診断したが,外部にコンサルトした症例は5例である.デジタルパソロジーが無くてもほぼ困らないのである.

①で最も重要となる状況は1人病理医の先生がダブルチェックする状況を構築することである.つまり,1人病理医の病院,日本の場合,地域の中核病院クラスの病院,標本を作製する施設に,WSIスキャナを設置し,デジタルパソロジーシステムを構築することである.

②は今後最も重要となるであろう.例えばER, HER2,Ki67の免疫組織化学などのカウントに客観性を持たせたり,AIで腫瘍細胞割合を算出したり,AIでゲノム異常を予測しゲノム検索を効率的に行ったりすることなどであろう.

病理は顕微鏡をみて綺麗な画像で診断する,これが100点である.
デジタルパソロジー・デジタルサイトロジーでは,綺麗な画像で診断する(100点満点)+デジタル解析ができる(50点満点)である.デジタルパソロジーは,顕微鏡に比べて“綺麗な画像で診断する”が95点であったとしても,デジタル解析が40点であれば,合計は135点となり,100点である顕微鏡を超えるのである.私が,デジタル解析が重要であると考える理由である.

本研究会では,重要性の高い学術的な研究を行いつつ,FDA,PMDAの認可を得た,特にユーザーフレンドリーな,デジタルパソロジー・デジタルサイトロジーで使用する多数の解析アプリを世に輩出することを目標としたい.

最後に
会員皆さまの活発な活動を期待しつつ,ご意見を伺いながら,今後の発展につなげていきたいと思っております.どうぞご支援の程,よろしくお願い申し上げます.

日本デジタルパソロジー研究会理事長(会長)
前田 一郎